最高2,000℃までの迅速な昇温を実現した弊社の超高温真空・雰囲気炉は様々な分野でご活用いただいています。今回は高品質なカーボンナノチューブの製法を研究されている国立大学法人信州大学のご担当者様に使用感やメリットをお聞かせいただきました。
純度の高いカーボンナノチューブを作り出すために高温炉が必要でした。カーボンナノチューブは高い強度や優れた導電性など、様々な特長を持つ素材であることは広く知られています。
ところが実際には、カーボンナノチューブには生成の過程で金属等の不純物が混入することがあります。たとえ微量でも不純物が含まれていると、規則的な炭素原子の配列のみで構成されている、すなわち『結晶化度が高い』カーボンナノチューブと比較して有用な特性が劣る傾向にあります。
そこで、不純物が混入したカーボンナノチューブを真空中で加熱することで結晶化度を高める方法を模索することにしました。この加熱処理を行うために、新しく高温炉を導入する必要がありました。
高温炉の導入にあたり、(株)ナガノを含めた複数社の製品で比較検討を行いました。
まず昇温性能ですが、選定時の条件は最高2,000℃としています。主に使用する温度は約1,800℃ですが、なるべく能力の上限は余裕のある方が好ましいです。将来的に他の研究に流用することも含めて考慮した結果、2,000℃まで昇温できることが一つの条件となりました。
また設置する研究室には既に複数の装置が稼働しているため、新たに高温炉を設置できるスペースには限りがあります。そのため温度はもちろんですが、装置一式が省スペースであることも同じくらい重要な要素でした。
これらを踏まえると最高2,000℃で使用でき、なおかつ小型で取り回しの良い(株)ナガノのNEWTONIAN Pascal-40に軍配があがりました。
稼働実績は導入から既に100回以上使用しており、そのうちの8割は1,800℃まで昇温しています。幸い動作に問題は無く、消耗品は交換しているものの今のところ目立ったトラブルはありません。装置が手元にあることで、別拠点の設備を使用する場合と比べて試料の受け渡しや事務手続きから解放されるというメリットを日々実感しています。
加熱するのは写真のような膜状のカーボンナノチューブですが、実際に使ってみると加熱できる容積が試料に対して大きいことがわかりました。そこで効率を重視し、余剰スペースをセパレータで分割して2種類の試料を同時に加熱するという使い方をすることもあります。分割に用いるセパレータは装置導入後に(株)ナガノ側から提案をいただき追加購入しました。このようなアフターフォローにも感謝しています。
実験の結果としては熱処理により不純物が除去され、当初の目的であったカーボンナノチューブの結晶化度を上げることができました。結晶化度の高いカーボンナノチューブが生成可能になることで、将来的には高強度の送電線といった新たなエネルギー供給方法などの創出に活かすことができるようになるかもしれません。実験で得られた成果については学会での発表のほか、炭素関連の分野を専門に扱う学術誌である”Carbon Trends”にも掲載されています。
これまでお伝えしたカーボンナノチューブの研究は担当者が交代しても継続して実施しますので、NEWTONIAN Pascal-40は引き続き使用する見込みです。
また、これとは別に現在は混合ガスから特定のガスを取り出すための分離膜として酸化グラフェンを生成する研究も行っており、この研究でも活用していきたいと考えています。