最高2,000℃までの迅速な昇温を実現した弊社の超高温真空・雰囲気炉は様々な分野でご活用いただいております。今回は地球マントルについての研究をされている公益財団法人高輝度光科学研究センターのご担当者様に詳しい用途や弊社製品の優位点をお聞かせいただきました。
地球の深部を構成するマントルの材質や対流に焦点をあてて研究を行っています。
マントルの動きは地球表面の岩盤が移動を続けるプレートテクトニクスと連動していると考えられています。地震や火山といった災害とも深い関係にあるため、マントルを知ることで防災に関する知見が増えることが期待されます。
またプレートテクトニクスは他の星では確認されておらず地球のみで起きているため、生命の誕生に寄与している可能性があります。マントルを研究し地球と生命誕生の関係を明らかにすることが、宇宙に存在する地球に類似した惑星において生命の有無を判断する要素につながるかもしれません。
ここでは地球マントルの組成や構造を明らかにすることを目的に実験を行っています。マントルを構成する主な成分はマグネシウム・鉄・珪素・アルミニウム・カルシウムなどからなる酸化物であると考えられていますが、その詳しい量比はわかっていません。マントルそのものを掘削して調査することは困難を極めますので、その代替としてマントル成分の候補と考えられている物質を高温高圧環境に曝し、実験室に地球内部の環境を再現します。高温高圧によって変質した候補物質の物性を実際のマントル挙動と比較することでマントルの正体に迫ります。
そのためにはまずマントルの候補物質を用意しなければなりません。候補物質の材料としてはMg2SiO4やCaSiO3が挙げられますが、これらの物質の多結晶体を物性測定実験に使用するためには結晶の粒子が1µm以下からなるナノ多結晶焼結体を合成して用いることが望ましいです。
セラミックスの分野においては多結晶焼結体を得るために真空で焼結する方法が知られていたため、同様の手法を取り入れることにしました。今回納入していただいたNEWTONIAN Pascal-40は、この多結晶焼結体を真空焼結するために使用しています。
その後の実験の流れとしましては、多結晶焼結体となった候補物質はSPring-8の放射光施設内に設置しているマルチアンビルプレスに移されます。マルチアンビルプレスによってつくられる高温高圧環境で粘性率などの物性が変化する様子をSPring-8の放射光を使って透視して測定します。
試料の結晶構造や動的物性が時間とともに変化することは”カイネティクス”や”反応速度論”と呼ばれますが、正確な結果を得るためには変化前の粒径などの微細組織を精密にコントロールすることが非常に重要です。そのため候補物質の多結晶焼結体を安定して焼成するために高温炉を調達する必要がありました。
焼成に必要な1,600℃以上の加熱が可能な炉として、一般的な集光炉は狭い1点の加熱しかできないうえ、試料の色によっても到達する温度が変動するため不向きです。
一方、管状炉であれば加熱面積は大きくなりますが、試料の冷却に一晩近く時間がかかります。冷却に時間を要すると、その間に試料が相転移によって結晶構造が崩壊してしまう物質もあるためこれも適しません。
以上の背景から、加熱面積が大きくかつ迅速に温度が低下することが条件となりました。C/Cコンポジットを使用した(株)ナガノ製のNEWTONIAN Pascal-40であれば1㎤サイズの試料を加熱することができ、加熱後約1時間で100℃以下となるので最適でした。
期待通りMg2SiO4やCaSiO3、MgOからなる多結晶焼結体の焼成が可能となり、マントルの候補物質を用意することができるようになりました。
実験の出発点である候補物質の構造が重要であることはお話したとおりですが、同一条件で加熱したものは毎回同様の性質をもっており再現性は高いため、高温炉の性能が安定している証拠であると評価しています。
また候補物質の焼結以外に、ダイヤモンドとボロンを反応させたボロン添加ダイヤモンドの合成にも利用しています。ボロン添加ダイヤモンドは加工しやすく熱に強い性質を持っています。これをNC加工機で写真のような直径1mm程度の筒状の形状に加工することで、候補物質に高温高圧をかける際の熱源として使用することができるようになります。
使い方は候補物質の多結晶焼結体を筒の内部に入れ、焼結体の入った筒ごと高圧の発生を担うマルチアンビルプレス内の高圧セルに設置することで高温と高圧を同時に発生させます。
ただしこの筒は実験中の高圧によって破壊されるため、1回の実験で1度しか使用できません。NEWTONIAN Pascal-40は実験複数回分に使えるサイズのボロン添加ダイヤモンドの塊を1回の焼成で製作できるため、その点も魅力に感じています。
今後の予定はMgSiO3等の別の候補物質を用いて多結晶焼結体の焼成を予定していますので、引き続き使用していきたいと考えています。