国立大学法人東京科学大学のご担当者様からお話を伺い、弊社の超高温真空・雰囲気炉が燃料電池の性能を向上させることに寄与した事例をご紹介します。
2021年から国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構からの業務委託のもとで燃料電池の性能向上についての研究をしています。
ご存じのように自動車メーカーが電気自動車への転換を加速するなど、二酸化炭素排出量の削減は社会全体の目標として掲げられています。燃料電池を改良することにより、将来的にはカーボンニュートラルの実現といった環境問題などに貢献することができると考えています。
燃料電池の内部にあるGDL(ガス拡散層)の厚みを薄くするという方法で性能向上を図っています。
GDLはポリアクリロニトリル(PAN)という合成樹脂の粉末からマイクロファイバーと呼ばれるシート状になった樹脂繊維を製作し、これを高温で焼成することで作られます。
高温で処理されたマイクロファイバーは黒鉛化してカーボンファイバーになります。従来のGDLは200μm程度の厚みの中に、直径が数μmの黒鉛化カーボンファイバーが重なってできています。微細なカーボンファイバーが厚みを形成しているため、GDLの内部はカーボンファイバーどうしの隙間が孔となり多孔体の形状となっています。この多孔体は燃料電池の内部で発電時の化学反応に必要な水素や空気を運搬する役割を担っていますが、孔が大きいと電池内で発生した水蒸気が孔の中で水となって凝集しやすくなります。そうしてできた水により孔が塞がれてしまうと、結果として燃料電池の性能低下を招きます。
逆にGDLをこれまでの200μmより薄く、かつ緻密な構造にすることで多孔体の孔径は小さくすることができます。これにより水の凝縮問題を回避でき、更にはガス拡散性や電気伝導性の向上など高性能化に有利に働くことが期待できます。
GDLの性能向上のために焼成前のマイクロファイバーを、より微細なサブミクロンレベルのナノファィバーに置き換えることで、薄く緻密なGDLの作成を目指すことにしました。
ナノファイバーは研究室内にある別の装置で作ることができるため、(株)ナガノの高温炉は用意したナノファイバーをGDLにするために行う安定化処理、炭化処理、黒鉛化処理の一連の加熱プロセスで使用しています。
焼成前のナノファイバー
純度の高い黒鉛化処理を行うためには3,000℃以上に加熱することのできる高温炉の使用が理想です。
しかし装置のサイズや価格も性能に伴い増大してしまうため、現実的な妥協点として加熱温度の上限は2,000℃までとし、そのかわり実験室内でも使えるような小型かつリーズナブルな製品を探すことにしました。
インターネットでの検索によって、条件を満たす製品を製作している会社は(株)ナガノを含めて2社がみつかりました。
正式に装置を発注する前にサンプルの焼成試験を(株)ナガノに依頼したところ期待した結果が得られたため、今回導入することを決定しました。
ナノファイバーの黒鉛化処理によって、厚みが約80μmのGDLを作ることができました。お話したように従来品の厚みは約200μmなので半分以下の薄さを達成したことになります。それに伴って多孔体の孔もこれまで約100μmほどの大きさだったものを約2~3μmまで桁違いに小さくすることができました。
ナノファイバーを焼成したGDL
こうして製作したナノファイバー由来のGDLを使用して燃料電池を試作し、研究室内でX線を用いて発電試験中の電池内での液体の発生する様子を観察しました。その結果水の凝縮の解消や燃料電池の性能向上が確認されたため、現在は試作したものを第三者機関に提出し競合品と比較して評価を行っています。
今後の予定としては、第三者機関による評価結果が客観的にみても良好であることが確認されれば、同様の研究で引き続き高温炉は焼成に使用を続ける予定です。